関西SDgsフォーラム

 国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)について話し合う「関西SDGsフォーラム見つけよう、あなたからのアクション」が11月18日、大阪市北区のグランフロント大阪・ナレッジシアターで開かれました。国連広報センターの根本所長の講演と、SDGsに力を入れる企業の取り組み紹介の後、パネルディスカッションでは、企業、行政、教育機関など様々なメンバーが集まり、大阪・関西から持続可能な社会を実現するために、何ができるかを議論しました。

SDGsとは

  • SDgsとは

 2015年の国連サミットで採択された世界共通の目標。貧困や飢餓の解消、質の高い教育の提供など17の目標を2030年までに達成するために、政府や自治体、企業などは様々な取り組みを行っています。

 例えば、アストラゼネカの環境保全への取り組みは、ゴール12「つくる責任つかう責任」ゴール13「気候変動に具体的な対策を」など。アワーズの竹の活用は、ゴール15「陸の豊かさも守ろう」に該当します。

 また、2025年の大阪・関西万博はSDGs達成に向けた取り組みの場と位置づけられています。

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  • 吉村洋文氏

開会あいさつ

大阪府知事 吉村 洋文 氏

 2025年開催予定の大阪・関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」の背景には、SDGsが掲げる「2030年までに17の持続可能な開発目標を達成する」という基本理念がベースにあります。これを実現するには、一人ひとりが「自分事」としてとらえ、実行していくことが重要です。

 「誰一人取り残さない」。今を生きる私たちには、この理念が実現される社会を目指し、次世代に伝えていく責任があります。今年6月に開催されたG20では、海洋プラスチックごみも議題に挙がりました。SDGsを達成する社会を目指して、この大阪・関西の地から率先して課題解決に向けて取り組んでまいります。

  • 根本かおる氏

基調講演

SDGsを「自分事」化して、世界を変革する担い手に!
国連広報センター 所長 根本 かおる 氏

 SDGsの大原則は「誰一人取り残さない」という人権に根差した考え方をベースにしています。それを体現するために、誰もが「自分事」として行動していくことが重要です。例えば、ICTが発達することで、遠隔地でも医療サービスや教育を受けることができるようになると、置き去りにされがちな人々を救うことができます。

 一方、クリアすべき課題も浮かび上がっています。今の状況では2030年に目標すべてを達成することは厳しく、深刻な貧困状況にある人口の割合は最終的に6%残ってしまいます。また、途上国でSDGsを推進するには圧倒的に資金が不足しており、民間からの支援が必要です。

 さらには、私たちの存続をおびやかす気候変動も危機的状況です。今のままではあと11年で世界の平均気温は産業革命前より1.5℃上昇してしまうと言われています。この問題に対してこの秋、世界中の若者たちが大人たちに気候行動のリーダーシップを求めて立ち上がりました。近い将来、こうした価値観を持った人たちが消費者の中心となり、社会の担い手となります。その時にビジネスがどのような形でなければいけないのか──。美しい地球、豊かな暮らしを将来につないでいくために地域や個人、そして企業でできることを考えて、SDGsの輪につながっていくことを願っています。

  • ステファン・ヴォックスストラム氏

取り組み紹介❶

目に見える目標を設定し、一人ひとりのアクションから
アストラゼネカ株式会社 代表取締役社長 ステファン・ヴォックスストラム 氏

 当社は英国に本社があるバイオ医薬品企業です。私たちは患者さんや社会、環境に貢献することでより健全なビジネスを続けていくことができると考えています。

 本日は持続可能な社会の実現のために私たちが行っている取り組み(サステナビリティ)である、「医療アクセスの拡大」「環境保全」「倫理と透明性」の3つを紹介します。

 まず、「医療アクセスの拡大」として、当社では新薬承認から薬価が決まるまでの間、他に治療法のない患者さんに対し、倫理的観点から、肺がんや卵巣がん、重症ぜんそくの薬や、遺伝子検査を無償で供給しています。

 また、大阪府と協力してアレルギー疾患の啓発・理解促進のためのセミナーを市民および医療関係者向けに行いました。さらに、小児患者さんとご家族が治療に集中できるように、滞在施設の清掃活動を行っています。

 次に「環境保全」ですがCO2(二酸化炭素)削減のために営業車全体の9割を2021年までにハイブリッド車に移行する予定です。紙資源の削減にも取り組み、この9か月間で社内で約130万枚減らすことができました。また、プラスチック製品であるペットボトルなどの使用禁止を宣言するとともに、琵琶湖などでプラスチックごみを拾う清掃ボランティアをしました。

 最後に「倫理と透明性」です。「ダイバーシティ(多様性)」と「インクルージョン(包摂)」は非常に重要です。当社では障がいを持っている社員と他の社員との交流を行うなど、色々な側面から、多様性に富む企業を目指しています。

 来年からは「5-8-1プログラム」と称して、全社員が1年に8時間、サステナビリティに関わる5つのプログラムから1つ選んで取り組む、という計画を進めています。さらに、CO2排出をゼロに近づけるために植林にも取り組みたいと考えています。

 サステナビリティは社員が誇りを持って働く職場の実現には不可欠です。私たちは目に見える目標を設定しました。今後は実際に達成できたかどうかを計り、さらに高い目標を設定することが必要です。社員一人ひとりのアクションが未来に大きな変化をもたらすと信じています。

  • 山本雅史氏

取り組み紹介❷

持続可能な循環型パークを目指して
株式会社アワーズ (和歌山アドベンチャーワールド)代表取締役社長 山本 雅史 氏

 和歌山県・白浜町で動物のテーマパーク「和歌山アドベンチャーワールド」を運営する当社はSDGsが目標とする「持続可能な社会の実現」に賛同し、様々なプロジェクトを実践しているところです。

 主な取り組みとしては障がいのあるお子様とご家族の無料ご招待、動物を連れての医療・介護施設訪問、パークのバリアフリー化などがあります。

 また、「種の多様性」を守る取り組みとして「ブリーディングローン」と「精子・卵子の凍結保存」も推進しています。「ブリーディングローン」とは、希少動物を絶やさず、増やしていくために動物園や水族館同士で動物を貸借する制度です。「精子・卵子の凍結保存」は、遺伝的多様性を保持しながら長期にわたる個体群維持を図るために、遺伝子の保存や人工授精技術の確立を目指しています。

 さらに、パンダの主食となる「竹」を竹の増えすぎで里山の環境悪化が懸念される大阪府岸和田市から調達し、山の荒廃防止に取り組むプロジェクトにも力を入れています。今年、パンダが食べ残した竹幹を活用して竹灯籠を作り、パーク内に展示するイベント「竹あかり」を開催しました。将来的には竹幹やパンダのフンを燃料や肥料などに使い、資源をパーク内で循環させていきます。

 また、園内の案内パンフレットには石灰石を主原料にした新素材を導入しています。

 私たちは今後も社会や世界の課題に取り組み、持続可能なビジネスモデルを作っていきます。そして、未来を生きる子どもたちに良い社会を残すことができるように、持続可能な循環型パークを目指してまいります。

パネルディスカッション

持続可能な社会のために、私たちができることとは

  • 関西SDGsフォーラム
  • 蒲田充浩氏

    蒲田 氏

  • 本屋和宏氏

    本屋 氏

  • 山口洋典氏

    山口 氏

●パネリスト
ステファン・ヴォックスストラム氏(アストラゼネカ株式会社 代表取締役社長)
山本 雅史氏(株式会社アワーズ <和歌山アドベンチャーワールド> 代表取締役社長)
蒲田 充浩氏(旭松食品株式会社 取締役経営企画部長)
本屋 和宏氏(大阪府 政策企画部 企画室長)

モデレーター
山口 洋典氏(学校法人立命館 SDGs推進本部 事務局長)

取り組み紹介


山口 持続可能な社会を実現するために何ができるかについて、それぞれの取り組みを紹介してください。

蒲田 当社の企業理念と経営理念がSDGsと直結しているのではないか、というところから私たちの取り組みは始まりました。今年4月に「SDGs宣言」をして高野豆腐の健康面への新たな機能性を発信するとともに、「持続可能な原料調達の達成」に挑戦。世界120か国以上の優良な農業事業者を認証する「グローバルGAP認証」の大豆を使った商品の製造・販売を10月から開始しました。また、豆腐を作る際に出る廃棄物を土壌改良剤として再利用するために自治体と連携する「地域社会への貢献」にも力を入れています。

本屋 大阪府では昨年4月に「大阪府SDGs推進本部」を設置し、2025年に開催予定の大阪・関西万博の開催都市としてSDGsを具現化したまちづくりを進めています。万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」は、SDGsの基本理念と合致しています。大阪人の気質としてよく言われる「進取の精神」「開放性」「社会貢献と公利公益の精神」は、大阪でSDGsを推進するにあたって非常に親和性が高いと言えます。「誰一人取り残さない」「みんなで世界の課題解決に貢献していく」という考え方を基本に大阪をSDGs先進都市にしていきたいです。

企業ができること


山口 持続可能な社会を実現するには何から始め、どのように推進していけばよいのでしょうか?

ステファン 職級に関係なく全社員が活動に参加し、現状を感じることが大事だと考えています。当社では実際に琵琶湖まで行ってプラスチックごみを拾ったり、小児患者さんの滞在施設の清掃を通して生活環境を知るといった活動を展開しています。グローバル企業として世界全体で取り組む活動もありますが、「グローバルに考えてローカルで行動する」ことが大切だと思います。

山口 SDGsに取り組むことでどんな価値が生み出せるでしょうか?

ステファン 製薬企業として、患者さんおよび社会から信頼される会社であることは大変重要です。また、大阪府や他企業と連携して社会課題に取り組むことで、社員が会社で働くことに一層の誇りを持ち、成果を出したいと思うようになることも大きなメリットだと考えています。

山本 SDGsに取り組むことは、これから持続可能な経営をしていくための新しいビジネスモデルを考えるきっかけになります。また、全社員が社会に貢献できているという意識を持つことは、モチベーションアップや成長につながります。

蒲田 SDGsというキーワードは若い人達の間で認知度が高くなっています。そういうことを意識した企業であることは、採用活動にも好影響を与えると思います。

山本 他社や自治体などとパートナーシップを組んでいくことの必要性を感じています。その中で自社の思いなどを発信することでパートナーを増やし、未来の社員である学生の方たちにも伝わっていくのではないでしょうか。

ステファン 企業はジェンダーや持続可能性に対してはっきりしたアイデアを持ち、発信することも必要ですね。

山口 立命館では、2030年に向けたビジョン「挑戦をもっと自由に」を策定しました。学園全体でのギネスワールドレコーズジャパンとの連携、バリ島での研修をきっかけとしたプラスチックごみ削減の活動が始まりました。ただし、挑戦は続けることが大事な上、やめる挑戦も時に必要です。「私」から「私たち」への挑戦の広がりを期待しています。

個人ができること


山口 皆さんは個人的にはどのようなことに取り組んでおられますか?

ステファン 買い物の際は布バッグを持参し、家族旅行では1年に5000キロ以上は飛行機を使わないなど、多少の犠牲は伴うけれども家族で決めた行動を実行しています。

山本 社内ではペーパーレスを進めていますので、社員から紙が来た時は必ず返したり、社員の誕生日にはマグカップをプレゼントしています。

蒲田 家の電灯をすべてLED化し、マイバッグ、マイ箸を使っています。

本屋 外出する時はSDGsのバッジをつけるなど、普及を心がけています。また、大阪府では「健活10」という10の健康づくり運動に取り組んでいます。車に乗らずに歩いたり食事に気を付けるようになると、サステナビリティや環境への気づきにつながると思います。

連携してできること


ステファン 当社は大阪府とアレルギー疾患対策を連携して進めていますが、両者の異なる強みを生かすことで、予防のための様々な対策を講じることができ、アレルギー重症化を防ぐことができると思います。

本屋 スピード感や社会変化への対応力の高さが企業の強みです。こうした点が社会課題の解決に生かされるよう連携を進めています。

山本 当社の地元ではICTを活用して白浜で空港、ホテル、テーマパークを複合的に顔認証でつなぐ実証実験を行い、パートナーシップの構築を目指しています。

蒲田 当社は食品メーカーですので、大阪府と連携して小中学校での食育に取り組んでいきたいと考えています。

若い人たちへの期待


  • 関西SDGsフォーラム

山口 若い人たちにはどのようなことを期待されますか?

本屋 SDGsはみんなで作っていくもの。将来に対してプラスになることを積み上げていただきたいです。

蒲田 世界的な危機が迫っていることを意識しながら、今やれることを少しずつやっていただきたいです。

山本 未来に対するワクワク感を持って、SDGsに取り組んでほしいです。

ステファン 自分で考えて行動すること、そして当社のような企業とアイデアを共有し、連携して進めることもいいでしょう。目に見える形での行動から始めてみてください。

参加者の声


  • 関西SDGsフォーラム

地元の里山を保全する「里地里山プロジェクト」というSDGsの取り組みをしている雲雀丘学園高等学校(兵庫県宝塚市)の生徒さんより

「パネリストの方たちが身の回りの小さなことから始めていることを知り、自分にも何かできそうだと思いました。そんな人が増えて、大きな結果につながっていってほしいです」

  • 主催/読売新聞社
  • 共催大阪府
  • 後援大阪市、大阪商工会議所、関西経済同友会、関西経済連合会、関西SDGsプラットフォーム
  • 協賛旭松食品、アストラゼネカ、大丸松坂屋百貨店、和歌山アドベンチャーワールド