国連が掲げる「持続可能な開発目標」(SDGs)について討論する「関西SDGsフォーラム 健やかな未来を創る関西からのアクション」(関西SDGsプラットフォーム主催、読売新聞社共催)が10月16日、大阪市中央区のドーンセンターで開かれた。松井一郎大阪府知事のあいさつの後、鈴木大地スポーツ庁長官が基調講演。「健やかな未来環境を考える」を主題に2部構成で行われたトークセッションでは、人生100年時代を豊かに生きるための取り組みが紹介された。

※SDGs=Sustainable Development Goals

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五輪を絶好の機会に

 ソウル五輪で金メダルを取って帰国した際、大勢の人から「ありがとうございました」と言われた。自分のために泳いだつもりだったが、周りの人にも元気を与えられたとわかり、スポーツの力を実感した。

 スポーツの力を社会で有効に活用するため、スポーツ庁では様々な取り組みを進めている。

 楽しく歩く習慣を身につける「FUN+WALK PROJECT」はその一つだ。スマートフォンの専用アプリを使い、1000歩ごとに1ポイントがたまる仕組みで、8ポイントで飲食店の割引券などがもらえる。毎日それくらい歩けば、生活習慣病になりにくいとされる。人々が健康になり、医療費抑制につながることも期待できる。

 スポーツ関連のビジネスを発展させるための支援も始めた。日本のスポーツ関連の市場規模は現在5.5兆円。それを2025年には15兆円にしたい。市場拡大に伴って施設や環境が整い、競技人口が増え、さらに市場が拡大する、という好循環を目指している。

 スポーツを通じた国際貢献や交流にも力を入れている。開発途上国を中心に100か国以上・1000万人以上を対象にした「Sport for Tomorrow」を14年に始め、ケニアで卓球を教えるなど、世界中の人々にスポーツの価値を伝えている。

 こうした事業によってもたらされる国内外の人々の健康、経済成長、平和と公正などは、SDGsの理念と合致する。東京五輪・パラリンピックが迫ったこの時期だからこそ、スポーツの分野からSDGsを盛り上げていきたい。

 このほか、今年8月に東日本大震災の被災地・岩手県釜石市で竣工(しゅんこう)した「釜石鵜住居(うのすまい)復興スタジアム」は国際交流や環境保護など、SDGsを推進する六つの理念を掲げている。

 スポーツの価値はメダルの数だけではないと思う。東京五輪・パラリンピックの後も、生涯スポーツの祭典「ワールドマスターズゲームズ2021関西」など、スポーツへの関心が高まる絶好の機会が続く。こうした機会を通じ、SDGsの達成に貢献していきたい。

鈴木 大地(すずき・だいち)
1988年ソウル五輪・競泳男子100メートル背泳ぎで金メダルを獲得した。順天堂大教授、日本水泳連盟会長などを経て、2015年10月から現職。51歳。

 トークセッションの第1部は「ヘルスケア・スポーツの現場から」と題し、元陸上選手の為末大氏、ワールドマスターズゲームズ2021関西組織委員会副会長の泉正文氏、武庫川女子大健康・スポーツ科学部講師の幸野邦男氏が議論した。司会はフリーアナウンサーの毛利聡子さん(第2部も)。

――SDGsに関わるみなさんの活動は。

為末 SDGsの17分野の16番目「平和と公正」に関連すると思うが、膝から下を切断した世界の子供たちに義足を贈り、スポーツができるようにする活動をしている。様々なサイズの義足をそろえた東京の施設に子供たちを招き、自分に合う義足で練習してもらう支援もしている。

 2021年5月に関西一円で開く「ワールドマスターズゲームズ」の準備を進めている。30歳以上なら誰でも参加できる生涯スポーツの祭典で、人生100年時代を迎えた現代を生きる高齢者らの健康や生きがいづくりに役立つ。SDGsの3番目「健康と福祉」に貢献できる。

幸野 武庫川女子大で、スポーツ関連の起業に関する教育に取り組んでいる。学生がスポーツや健康産業に関するビジネスプランを作り、米大学で発表する演習も行った。リーダーシップに優れた世界で通用する女性を育てる狙いだ。SDGsの5番目「ジェンダー平等」につながる。

――スポーツとSDGsの現状と課題は。

為末 義足は個々の選手の特徴に合わせて作る必要があり、量産できない。経済的に成り立たせようと思うとどうしても高額になり、買いづらくなる。このように、個々のニーズに向き合いながら、いかに持続可能な取り組みにするかが大きな課題だ。

 世界で新しいスポーツが広がっている。対戦型の電子ゲームをスポーツと捉える「エレクトロニック・スポーツ(eスポーツ)」は今年のアジア大会で公開競技になった。欧州では囲碁やトランプのブリッジをスポーツとみなすこともある。経済や地域の振興につながっており、8番目の「経済成長」に役立っている。

――会場のみなさんにアドバイスや今後の展望を。

 スポーツは人生や社会を豊かにし、SDGsに貢献する。ワールドマスターズゲームズの組織委員会は、「Team Do Sports」というサイトを作った。練習仲間を探したり、大会の情報を検索したりできる。ぜひ利用してほしい。

幸野 女子教育の経験から、指導者自身がたくさんのことを学び、学生らのやる気を起こさせることが大事だと実感した。大学が地域に貢献すれば、大学競技のファンの増加にもつながる。

 トークセッションの第2部「はじめよう! SDGsアクション」では、為末大氏のほか、国際協力機構(JICA)の前・南スーダン事務所長の古川光明氏、りそな銀行マネジャーで2025日本万国博覧会誘致委員会事務局の中嶋直人氏が参加した。

――みなさんのSDGsに関する取り組みは。

古川 南スーダンでは2011年の独立後、民族対立が続いている。JICAは、国民の融和と統一につなげるため、独立後初めての国民体育大会の実現を積極的に支援し、16年に開催できた。各地から350人が参加し、サッカーや陸上などで競い合い、民族の違いを超えた友情や信頼関係が生まれた。SDGsの16番目「平和と公正」に通じる活動だ。

中嶋 大阪開催を目指している2025年の万博では、SDGsへの貢献を掲げている。りそなグループは17年から「日本万博・SDGs応援ファンド」という法人向け融資商品を始めた。貸出額の0.1%を、SDGsに貢献している団体に寄付する仕組みで、半年で約5500万円を寄付した。

――SDGsを達成するためのアイデアは。

為末 スポーツは人を結束させる大きな力を持っている。子供の貧困などの様々な社会問題に取り組む人たちは、選手と連携して解決に取り組むなど、スポーツの力をうまく利用してほしい。例えば1人の五輪選手に一つずつ課題を割り当てれば、SDGsに関連する多くの課題が解決できるかもしれない。

中嶋 SDGsは初めてできた世界共通の指標といえる。物事に迷った時、正しいかどうかを判断する物差しとして使えば、身近なものになる。企業関係者にとっては、SDGsはまだどの企業もやっていない取り組みができる可能性がある「宝箱」だと思う。ビジネスチャンスに生かしてほしい。

古川 南スーダンの事例で言えば、敵対していた民族同士が国体を通じてお互いを知り、交流が始まった。みなさんも、SDGsについて何かやりたいことがあれば、勇気を持って一歩踏み出してやってみてほしい。それをいろんな人と共有すれば、さらに輪となって広がると思う。

為末 大(ためすえ・だい)
2001年と05年の世界選手権男子400メートル障害で銅メダル。五輪3度出場。スポーツと科学技術のプロジェクトを行う「Deportare Partners」代表。

泉 正文(いずみ・まさふみ)
日本水泳連盟副会長。2012年ロンドン五輪で競泳日本代表選手団のチームリーダーを務め、戦後最多のメダル獲得に貢献した。

幸野 邦男(こうの・くにお)
大阪府出身で、米アリゾナ大卒業。米国の5大学で計24年間、水泳部のコーチを務めた。2016年9月から現職。

古川 光明(ふるかわ・みつあき)
大阪市出身。JICAでタンザニア事務所次長、英国事務所長、研究所上席研究員、南スーダン事務所長などを歴任。現在は安全管理部長を務める。

中嶋 直人(なかじま・なおと)
大阪府出身。2007年にりそな銀行入行。17年から2025日本万国博覧会誘致委員会に出向している。

 主催者あいさつ  関西SDGsプラットフォーム

全国に先駆けて発足

 SDGsが掲げる17分野の一つに「気候変動対策」がありますが、今夏の西日本豪雨や台風はその必要性を実感させました。これらの達成には、あらゆる英知の結集と協力が必要です。

 関西では昨年12月、企業、市民団体、大学、自治体などの多様な連携を促進する「関西SDGsプラットフォーム」が全国に先駆けて発足し、参加団体は400を超えました。新しいことに進んで取り組む精神に富む関西こそ、SDGsの達成を先導するにふさわしい地域です。そのために、私たち一人一人ができることを考えていきたいと思います。

為末氏と大学生による特別セッション

学生と討論

 フォーラム終了後には、為末氏と学生4人が、SDGsに関連する健康や福祉、国際連携などについて、自由に討論するグループセッションが開かれた。

 武庫川女子大4年で陸上競技部の真喜志幸奈さん(22)は、授業の一環で、スポーツ用タイツを温度調節できるようにし、高齢者にも使えるようにした商品のアイデアを発表した経験を紹介。「スポーツ選手としての知識を、健康・福祉などに関する社会問題の解決に役立てたいと思うようになった」と話した。

 大阪大大学院2年の塩田悠人さん(24)は、代表を務める学生グループ「WAKAZO」の活動を紹介。大阪開催を目指す2025年万博でのパビリオン出展を目指しており、「万博を通じて世界の若者がのびのび活躍できる場所を作りたい」と述べた。

 為末氏は「若いうちにいろいろ体験することが大事。その中で、何が得意で何が苦手なのかが見えてくるはず」とエールを送った。

SDGsとは…17分野の目標 国連で採択

 SDGsは、すべての国が持続的に繁栄するために、貧困の解消、健康・福祉、教育など17分野の計169項目にわたって掲げられた世界共通の目標。国連が2015年までの達成を呼びかけたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、15年の国連サミットで採択された。

 MDGsでは「極度の貧困・飢餓の撲滅」「乳幼児死亡率の削減」など、主に途上国が抱える課題の解決を目指した。SDGsでは、それらに加えてクリーンエネルギーの開発や気候変動対策など全世界的な課題を盛り込み、先進国を含む国連の全加盟国に、30年までの達成を求めている。

 日本政府も16年、内閣官房にSDGs推進本部を発足させた。来年6月に大阪市で開かれる主要20か国・地域(G20)首脳会議や、20年東京五輪・パラリンピックなどを通じ、日本の取り組みや成果をアピールする。

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主催:関西SDGsプラットフォーム 共催:読売新聞社 企画協力:JICA関西
後援:大阪府・大阪市・関西広域連合・関西経済連合会・ 関西経済同友会・大阪商工会議所
   ワールドマスターズゲームズ2021関西組織委員会・2025日本万国博覧会誘致委員会 
協賛:武庫川女子大学