ご挨拶

 

松本 紘  理化学研究所 理事長

 理研は、基礎研究から応用研究までカバーする日本で唯一の自然科学の総合研究所です。国を支える科学力の展開を目標に、大学・研究機関・産業界をつなぐハブとなり、また地域との連携も重視しています。神戸の地に、健康に関わる異分野・異業種の融合研究に取り組む体制を作り、新たな製品やサービスを生み出してイノベーションを起こす起爆剤となることを目指します。

事業紹介

融合研究開発、事業化支援、人材育成――3事業の連携で好循環を生み出す

 少子高齢化に伴う医療費の増加、労働人口の減少などが問題となる中、生涯健康で社会で活躍することの重要性が高まっている。健康“生き活き”羅針盤リサーチコンプレックスは、健康維持・増進へのより正確な指針を提供し、個別健康の最大化を図る。シンポジウムでは、活動の中心となる三つのグループの事業が紹介された。

 融合研究開発グループは、ヒトを観察してデータを解析・理解・予測。結果を検証・介入する。渡辺恭良副プログラムディレクターは、「疲労や老化の因子を計測する技術はいくつかできている。症状との相互関係を見る技術を向上させ、簡易な計測を目指す」と研究の方向性を説明。奥野恭史副グループディレクターは、「ライフビッグデータを解析しコンピュータ上でシミュレーションすれば、個人の健康状態を可視化し、将来を予測できる。病気の早期治療など介入も可能」と期待する。

 研究開発の成果からは、ICT(情報通信技術)を活用した健康サービス、小型計測デバイス、食・フィットネス等の新たな価値が創造できる。事業化支援グループは、顧客志向で新たなニーズを発見し、ビジネスモデルにつなげていく。松本毅グループディレクターは、「1000人が積極的に参画する50のプロジェクトを生み出し、スピーディーに事業化する。グローバルに展開するオープンイノベーションプラットホームを神戸に作りたい」と目標を掲げた。

 人材育成グループは、異分野融合研究の担い手と事業化リーダー育成の場を提供する。海外の大学と連携した国際セミナー等を開催し、起業家精神を持ち、イノベーション創出・事業創造を担うアントレプレナーの育成に力を入れる。近藤昭彦副グループディレクターは「日本は融合研究を事業につなげる仕組みが脆弱。各分野と協働(きょうどう)し、持続可能なシステムとして構築していく」と話した。

 3事業のオーガナイザーを務める小寺秀俊プログラムディレクターは「多くの企業や研究者が集まって連携することで様々なアウトプットが生まれ、それをビジネスにすることでまた研究のネタが戻ってくるという好循環ができあがる。国内はもちろん海外からも人が集まる拠点にしたい」と意気込みを語った。

講演

企業の取り組み

総合討論「個別健康の最大化に向けて」

高まる健康への関心 ビジネスにつなげトータルサポート

― 私たち一人一人が健康に暮らしていくには

薬師寺: 健康であるためには、身体、メンタル双方の健康が重要かと思います。

山川: 人の脳は毎年着実に萎縮していきます。このように脳の見える化技術は目途が立ってきており、私も毎月MRIをとって、自分の脳の変化を見守っています。一方、ニューロフィードバックやロボットで脳を良い方向に改善することなどにも取り組んでいますが、まだまだ難しいものです。RCでもぜひ健康を高める研究を進めていただき、連携したいです。

渡辺: 健康は動的な現象です。我々は毎日体の中で起こった問題を修復していますが、例えばストレスが続くとその修復がうまくいかなくなる。修復を促す食事を摂ったり、自分でスケジュールを組み立てて行動したりするという工夫を推奨しています。

西水: 新たな取り組みである「沿線ひとえきスマートウォーク」では、視覚で街を楽しみながら歩き、さらに音声ガイドによる街のみどころや歴史の解説で好奇心を刺激する「トリプルタスク」で脳と体の健康づくりを目指します。駅で開催する簡易健診も人気があり、健康や健康数値への関心は高いと感じます。

薬師寺: RCが取り組む計測装置の開発やデータ分析が、イベントでも活用できそうですね。

 

― イノベーションの創出に向けて

宮田: 我々の役割は、つなぐこと、サポートすること。お客さまの経営課題に沿ったデータの蓄積を基にしたビジネスマッチングと、企業の将来性や成長性を見極めた資金を供給します。民間企業からは、公共の仕事をしたいがどこに話をすればいいか分からないという声をよく聞きますが。

稲田: 神戸市では、企業の皆様からのご相談にお答えする窓口の一つに、エンタープライズプロモーションビューローという組織を設けております。成長分野における新産業の創出は切実な問題なので、三井住友銀行さんにもご協力いただいて、ビジネスマッチングと資金の支援を合わせたトータルサポートを考えています。こういった情報は全てホームページに掲載しております。またRCの情報は、今後立ち上げる予定のコンテンツサイトに掲載します。ぜひご覧下さい。

薬師寺: RCは、研究から産まれるシーズの事業化に加え、産業振興・地域振興をするという大きなビジョンを描いています。私たちも知恵を絞っていますので、みなさまもご支援よろしくお願いいたします。

<登壇者・50音順> 
稲田 剛毅 氏 神戸市 医療・新産業本部 医療産業都市部 科学技術担当部長
西水 卓矢  阪急阪神ホールディングス グループ経営企画室 事業政策部 部長
宮田 直人  三井住友銀行 公共・金融法人部長
山川 義徳  内閣府 総合科学技術・イノベーション会議 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)プログラムマネージャー
渡辺 恭良 理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター センター長  / 健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム 副プログラムディレクター

<進行> 
 薬師寺 秀樹 理化学研究所 健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラムリサーチコンプレックス戦略室  事業開発戦略ナビゲーター