阪神・淡路大震災から25年
耐震 予防保全に力


 「関西みちフォーラム2019 安心・安全な暮らしのために、インフラ整備ができること」が昨年12月9日、大阪市北区の阪急うめだホールで開かれました。阪神・淡路大震災発生から25年になるのに合わせ、基調講演やパネルディスカッションで当時の状況を振り返りながら、自然災害に強いインフラ(社会基盤)整備のあり方について考えました。

主催/読売新聞社 後援/国土交通省近畿地方整備局、関西経済連合会、関西経済同友会 協賛/西日本高速道路、阪神高速道路

基調講演
「レジリエント社会の実現へ向けて~重要物流道路の役割~」

国土交通省近畿地方整備局長 井上智夫 

整備計画段階から迂回路

 「レジリエント」とは強靱(きょうじん)性などと訳され、何か外的な力が加わった時のダメージを最小限にしたり、回復を早くしたりする力のことです。特にビジネス社会では、災害や危機に直面したときに使われています。

 最近の台風による電柱倒壊や関西国際空港連絡橋へのタンカー衝突、西日本豪雨による土砂崩れや橋梁(きょうりょう)流失、のり面崩落、路面冠水などで、道路の通行止めが多発し、東日本大震災でも津波で道路が使えなくなりました。忘れてはいけない阪神・淡路大震災の時には、阪神高速道路倒壊のニュースに相当なショックを受けたことを覚えています。自然災害の多い日本で、道路の整備をどのように考えるのかは、以前から大きな課題でした。

 阪神・淡路大震災を機に、橋梁の耐震基準を引き上げました。安全性を維持する耐震化の取り組みの他、高齢・老朽化が進んでいる橋やトンネルなどの予防保全にも力を入れています。

 電柱の倒壊対策も重要で、電線を地下に埋める無電柱化を進めています。整備費用や修理の手間を理由に順調とはいえませんが、近年の広範囲にわたる倒壊を見ると、初めから地下に埋めておく方が合理的です。倒れた電柱で緊急・災害復旧車両などの通行が妨げられることのないように、道路の面から災害に負けないレジリエントなまちづくりに寄与するということです。

 阪神・淡路大震災の時、港が損傷を受け着岸できなくなりコンテナの取扱量が激減、震災前の水準まで戻るのに20年以上もの月日がかかりました。災害が起こった時のダメージを少なくして、早く回復する仕組みづくりをすることがいかに大切かということが分かると思います。道路においても同様で、災害などによる道路の通行止めは、救援活動や災害復旧だけでなく物流の阻害要因にもなります。道路整備の計画段階から迂回(うかい)路を考えておくことが重要です。東日本大震災で津波の影響を受けた太平洋沿岸側の物流量は、地震発生以前の8割以下に落ちてしまいましたが、日本海側からの経路があったことで東北の物流が途切れることはありませんでした。物流の効率化に意識が向いていた道路ネットワークを、災害対応としても考えていかなければいけません。

 そのなかで、平常時と災害時を問わずに安全で円滑な物流を確保するための「重要物流道路制度」が創設され、高速道路や国道など供用中の区間の中から指定されました。具体的には、トラックやコンテナが大型化している物流に対応した道路強化や、重要物流道路を補完する代替路なども含め、国による災害復旧等の代行が可能になりました。2019年の台風19号で被災した宮城県が管理する国道349号では、重要物流道路制度創設後、国が初めて復旧を代行して実施しました。

 これまで防災・減災・国土強靱化のための緊急対策や道路ネットワークの整備を行ってきましたが、とても間に合っているとはいえません。今後も様々な関係者と調整し、みなさんのご支援もいただきながら、レジリエントな社会構築を、緊急かつ強力に進めてまいります。

ポスター、パネルで分かりやすく

 ホール前では、南海トラフ地震からの身の守り方や道の駅の防災機能などを説明したポスター掲示のほか、関西の高速道路の整備状況を伝えるパネル展示も行われ、多くの来場者が熱心に見入っていました。

パネルディスカッション
「安心安全な生活を支えるインフラ整備」

パネリスト
 井上 智夫 氏
 関本 宏 氏 (阪神高速道路株式会社 取締役兼常務執行役員)
 永田 順宏 氏 (西日本高速道路株式会社 執行役員 関西支社長)
 柴田 巧 氏 (株式会社ジャパン・インフラ・ウェイマーク 代表取締役社長)
 大村 浩一 氏 (株式会社西松屋チェーン 取締役執行役員社長補佐室長)
 ※肩書は当時

コーディネーター
 八木 早希 氏 (フリーアナウンサー)

災害対策 歴史とともに進化

自然災害とインフラ

八木 想定外の自然災害が多発しています。阪神・淡路大震災から25年、改めて阪神高速の状況を教えてください。

関本 阪神地区で震度7が観測されたのは主要な道路や鉄道が集中する地域で、復旧活動にも大きな影響を与えました。阪神高速3号神戸線では、橋梁の落橋・倒壊などの被害を受け、道路の役割を果たせませんでした。阪神間の交通量は大幅に減少しましたが、並行する5号湾岸線の早期復旧により交通量が段階的に回復し、道路ネットワークの代替機能が発揮されました。

八木 西日本豪雨や台風などの災害が相次いだ西日本高速道路のエリアでは、被害と復旧作業はどのようなものでしたか。

永田 大阪北部地震での被害は橋梁の接続部分に若干の段差が生じた程度で、5時間ほどで通行可能になりました。2018年の台風21号では関西国際空港連絡橋にタンカーが衝突するという衝撃的な出来事もありましたが、約7か月で全面復旧しました。被害が大きかったのは18年7月の西日本豪雨で、緊急用の資材や防護柵などの備蓄、土砂流入を防ぐフェンスの設置など、対策を進めています。

八木 災害は起きない方がいいですが、知恵や技術の発展が強靱化の一面にもなりますね。

井上 日本の災害復旧の歴史は古く、すでに奈良時代に事例があります。当時は財政力も足りず、被害を受ける度に修復していましたが、その積み重ねで今は早期の復旧や事前の防災まで対策が進んでいます。

八木 災害復旧には、被害状況の確認・検証作業が必要です。最新技術でそれを担うのが柴田さんです。

柴田 当社はドローンを活用してインフラ点検をするNTTの関連会社です。早期復旧に必要な現場の情報を、新技術の自動化で迅速に集めることが可能になると考えています。ドローンで集めたデータを基に、クラウドサービスを使って瞬時に3D、2Dの地図を作成すれば、状況が確認できるというわけです。

八木 全国展開する西松屋にとって、高速道路を利用した物流は事業の要。災害時、どのような対応をしましたか。

大村 西松屋は子ども・ベビー用品等を販売していて、日常生活に密着したモノを提供している点では我々も社会生活のインフラを担っています。熊本地震の時、姫路市の本部から応援を派遣したり支援物資を届けたりして営業を再開しましたが、宿泊地から店まで4時間かかるなど人の移動と物流には非常に苦労しました。

老朽化・長寿命化対策 本格実施へ

道路インフラ強化の必要性

八木 代替道路の必要性は、他地域に物、人を届けるというところでも重要な役割があります。どのような対策が必要か、震災の経験をどのように生かしているか聞かせてください。

関本 耐震補強や新しい構造技術を適用し、大地震発生時でも緊急輸送道路としての機能を確保し続けられる取り組みを推進中です。また、大阪北部地震をきっかけとして高速道路の通行止めに関する運用の見直しを実施しました。その一つが通行止めエリアの細分化です。約5時間の通行止めは社会的影響が大きかったと認識しており、以前は府県単位で設定していた地震発生時の通行止めを、大阪・兵庫とも三つのエリアに分けることにしました。

八木 西日本高速道路のインフラ強化はどうでしょう。

永田 現在進めているのは、老朽化対策の「高速道路リニューアルプロジェクト」です。関西支社で管理している路線の約5割が開通から30年以上経過していて、様々なところで損傷が進行しています。都度、補修をしてきましたが、これまで以上に高品質、高耐久の材料、新工法を用いた大規模な補修を15年から実施しているところです。子どもや孫の世代まで安全安心な高速道路を引き継いでいきたいという思いで、「100年先まで幸せを運ぶプロジェクト」がコンセプトです。20年から関西圏の都市部でも大規模なリニューアル工事に着手してまいりますので、ご理解とご協力をお願いします。

八木 点検・修繕を重ねておられますが、点検が義務付けられたのは最近なんですね。

井上 12年の中央道笹子トンネル天井板崩落事故を契機に法定点検が義務化されました。目視や打診を基本にいろんな点検の仕方があって、短期間で終えられる技術が開発されてきています。単なる義務でなく、技術を有効に使える社会にしていきたいですね。

八木
 新技術によるメンテナンスの役割はなんでしょう。

柴田 通信会社はドローンが普及する前から全国に配備し、鉄塔や橋梁などをメンテナンスしていました。人が入れないところなどでも作業は3時間程度で終わります。日本全体でインフラのデータを集めて分析するAIを育てていけば、時間とコストが削減され、補修やサービスなどにお金が回せるのではと考えています。

八木 ユーザーとしてどのような感想ですか。

大村 被災しても迅速に復旧できる体制が整っていることは心強いです。弊社も含め、暮らしに身近なお店が早期再開すれば、被災地に物資と「日常が戻りつつある」という明るいメッセージも送ることができます。

高速道 交通円滑化図る

関西のネットワークの未来

八木 街を走っていると、阪神高速はいろいろな工事が続いています。どのような計画ですか。

関本 数か所の路線で整備を進めていますが、今年度内に大和川線が完成予定で、さらに将来淀川左岸線が完成すると、大阪都市再生環状道路が完成します。現状は大阪都市部をう回する高速道路がなく、用事がなくても市内中心部を経由せざるを得ない交通を転換させることで、高速道路全体の交通円滑化を図ります。移動時間の短縮、他路線の混雑緩和、事故や災害時の代替道路機能が期待されています。臨海部と内陸部のアクセス向上は、物流をはじめとした地域の活性化にも寄与します。

永田 西日本高速道路では、物流の生産性向上に向けたトラック隊列走行やダブル連結トラックの実現を見据え、すでに4車線で開通済みの新名神の大津~甲賀土山間の6車線化事業に取り組んでいます。物流車両の多くが東名・名神等に集中しています。6車線化により通行能力を上げて物流を支えている方々の負担軽減、省力・効率化に貢献することが役割です。

八木 私たち市民にはどのような恩恵があるんでしょうか。

井上 時間短縮や渋滞緩和は、普段の生活や旅行の時にも当てはまります。地方では、ドクターカーなどによる高度医療機関へのアクセス向上も道路の整備効果の一つです。医療機関と連携した道路整備も、これからの道路ネットワークに大切な要素だと考えています。

八木 商品配送での物流対策はどうですか。

大村
 弊社は国交省などが主導するホワイト物流推進運動の賛同企業として、協力会社と共に物流の効率化に力を入れています。これにより、運転手や物流センター、店舗の負担が軽減されます。トラックのCO2排出量も削減でき、我々自身の経済成長を維持しつつ環境問題の解決にもつなげることができます。

八木 メンテナンスについて、今後どのように考えていらっしゃいますか。

柴田 当社の強みは、同じインフラが抱える悩みや技術の導入方法が分かる部分です。技術開発を磨きながら実運用していきたいです。重要物流道路がこのような技術を活用して効率化されれば、余剰資金が生まれて新たなサービスを提供できるでしょう。地域や日本の成長を促し、便利で豊かな社会ができると想像しながら事業を営んでいます。

八木 明日起きるかもしれない自然災害に対し、インフラ整備で万全な体制をとっていること、また技術革新が日々進んでいることは大変心強いものでした。私たちも道路に関心を持って一緒に考えていくことが、より良い社会につながっていくのではないでしょうか。

 Profile 
いのうえ・ともお 1989年、京都大学大学院工学研究科修了後、旧建設省採用。近畿地方整備局姫路河川国道事務所長、近畿地方整備局河川部長、同局企画部長、水管理・国土保全局治水課長などを歴任し、2019年7月より現職。
せきもと・ひろし 1979年、阪神高速道路公団へ入社。主に道路建設や管理に関する企画、設計等の業務に従事。保全交通部保全企画グループ長、建設事業本部建設総括担当部長などを経て、2017年6月より現職。

ながた・のぶひろ 1989年、京都大学大学院工学研究科修了後、日本道路公団へ入社。西日本高速道路(株)関西支社京都工事事務所長、本社建設事業部建設統括課長、本社経営企画部企画担当課長、同部部長を経て、2019年6月より現職。
しばた・たくみ 2005年、西日本電信電話(株)へ入社。14年間、サービス開発に従事。米国シリコンバレーへの赴任等を経て、19年4月に(株)ジャパン・インフラ・ウェイマークを設立。37歳でNTT西日本グループ史上最年少代表取締役社長に就任。
おおむら·こういち 2010年、東京大学法学部卒業後、みずほ銀行入行。14年3月に西松屋チェーンに入社。経営企画室長、店舗運営本部 副本部長を兼任した後、19年1月に執行役員社長補佐室長、5月に取締役に就任。
やぎ・さき 1978年米国・ロサンゼルスで生まれ、大阪・阿倍野で育つ。2001年毎日放送に入社。11年にフリーへ転身。日本テレビ「news zero」キャスターを経て、現在は著名人へのインタビュー活動、国内外の取材、講演活動などを行う。