写真=「未来へ紡ぐリレープロジェクト 」ジュニア記者 共同取材
(左上から時計回りに)駒井あかりさん(高校1年生)、井上輝星さん(高校2年生)、藤田海斗さん(中学3年生)、駒井めぐみさん(中学1年生)、河合穂佳さん(高校1年生)、徳田翔天さん(中学3年生)、古川蓮さん(中学3年生)、久米崚平さん(大学一回生)、辻森誠也さん(高校2年生)、花山桜子さん(高校2年生)、(中央右)今村久美さん(認定NPO法人カタリバ代表)、(中央左)井下友梨花さん(カタリバ パートナー 熊本県人吉市の避難所から参加)
2020年、新型コロナウイルスによる感染症が世界中に広がりました。7月4日未明から熊本を襲った集中豪雨(令和2年7月豪雨)の被災地では、感染リスクに配慮しながら、避難や支援が行われています。「未来へ紡ぐリレープロジェクト」のジュニア記者が、熊本の避難所取材と災害対応ゲーム「クロスロード」を通じ、「支援する側」と「支援される側」の両面について学ぶ【オンライン防災学校】。さあ、授業のはじまりです。(8月10日、ビデオ会議システムZoomで開催)
講師:今村久美(認定NPO法人カタリバ 代表) 井下友梨花(カタリバ パートナー 熊本豪雨人吉市避難所から参加)
ナナメの関係
今村さんは、NPOカタリバという団体を大学卒業する2001年に立ち上げました。
「思春期の世代にこそ、いろんな大人と関わり合い、どんな環境でも自分の未来は新しくしていけると思えるような、当たり前の環境をつくっていくことを志しています」と今村さん。特に、震災や災害が起こった時に駆けつける際のスピード感は、被災地における若者支援の経験と実績が蓄積されているのだと感じます。
そのカタリバが大切にしているキーワードのひとつが「ナナメの関係」です。親や先生とのタテの関係、友達とのヨコの関係でもない、少し年上の先輩や利害関係のない第三者とのナナメの関係性を通じ、10代の若者の心に火を灯しています。
カタリバの迅速な被災地支援
カタリバはこれまで東日本大震災や熊本地震をはじめ、西日本豪雨(平成30年)や台風19号(令和元年)などの水害支援の経験を活かし、今回も発災翌日に緊急調査チームを立ち上げ、2日後には現地調査をスタート、5日後には被害の大きかった人吉市内の避難所に「みんなの遊び場『カタリバ・パーク』」を立ち上げました。
井下さんは、熊本大震災の時に創設されたカタリバ運営のコラボスクール「ましき夢創塾」に従事し、今回の熊本豪雨では人吉市の避難所で支援活動をしています。
「まず、子どもがどう過ごしているのかを調査をしました。子どもたちは居場所がなく、心を許して遊べる場所がないと感じ、熊本県や人吉市の教育委員会ともお話をして、遊び場を開こうということになりました」
気になるのは、避難所での新型コロナウイルス(以下コロナ)対策。どんな状態なのでしょうか。
「取材記者や派遣で来ている他府県の職員がコロナに感染したこともあり、避難所の中がコロナに敏感になっています。子どもたちと一緒に時間を過ごしながら、1時間ごとのアルコール消毒、換気、マスクを着けるなど、スタッフが予防策を行っています」
被災当初は高校自体も休校になっていたので、被災していない高校生がボランティアに来てくれたそうです。避難所では中高生がリーダーシップをとり、小さな子どもたちを楽しませる「ナナメの関係」がいい雰囲気でできているといいます。また避難所では、勉強スペースと遊びスペースを分けて、勉強したい子が集中して勉強できる環境もつくっています。
忘れられる不安
「小学3年生の子が『悲しかったこと』というタイトルの作文を書いていました。思い出の写真が水に濡れてぐちゃぐちゃになってしまってショックだったという内容。避難所生活の中で眠れなかったり、食事が出ることはありがたいけど同じお弁当ばかりだったり、子どもたちが困っていることもそれぞれ違います。スタッフも人数を確保して一人一人に合ったコミュニケーションを取りたいですね。ボランティアも少ないので片付け自体が全然進まず、親御さんも疲れています」と井下さんは、今回の支援者の少なさを痛感しています。
コロナ禍という感染症対策が必要な中で、これまでの被災地との違いをカタリバ代表の今村さんに聞きました。
「通常、自然災害が起きた時は、いろんな支援団体が被災地域に行きますが、今回はコロナということもありほぼ誰もいませんでした。これが、これまでの被災地と、コロナ禍における被災地の違いです。もう一つの特徴として、メディアも少ない。誰かしら駆けつけてくれ応援があるのは励みにはなるけど、コロナの影響で現地に入りにくいことが今までとまた違う状況を生み出しているのだと思います」
現状を伝える報道も少ないので、“まだ大変なの?と思われているかもしれない”と、今村さんは心配しています。
こうした状況の中で、直接的な関係が少ない私たちにできることは何があるのでしょうか?
井下さんは、「やはり忘れられることが怖いと思っている人がたくさんいます。忘れないでいるということも一つあるかな」。今村さんは、「思いを持つということは大事だけど、その伝え方も大切。ニーズに合わないものが送られてきて対処に困ることなどが現場でもよくあります。寄付は一番、タイミングや用途も選ばず役立てられます」と、私たちにもできることを話してくれました。
遠くに住む私たちは、洪水で大変だったのに、コロナのせいで別の不安を感じているという発想はなく、そこまで深刻だと思いませんでした。避難所で支援するスタッフも、これまで以上に体調管理には気をつけているそうです。
今村さんは、「重要なのは、明日にも自分のところでも災害が起きるかもしれない。そこに対する備えをどう考えていくかということ。今この瞬間、遠くで頑張っている熊本のみんなのこともぜひ考えてアクションしていただけたらなと思います」と話します。
支援の前線で奮闘する方の生の声を聞けたのは貴重な経験。今回のことを忘れず、まわりのみんなに共有していくことを心に誓いました。
ジュニア記者の声<前編>
「継続して情報発信を」 河合穂佳さん
「忘れられてしまうんじゃないか」。私はこの言葉が印象に残っている。コロナウイルスの影響で現地を訪れるメディアが少ないと知った。メディアがあることにより被災地とのかけ橋ができていた。しかしそれが少ないことによって、現地から不安の声があがっている。熊本の現状を知り、今回知ったことを伝えることで風化させない、未来へ紡ぐための一つの手段なんだと改めて思った。人間は忘れる生き物だ。私は継続して情報を発信していきたいと思う。風化させないためのツールはSNSや新聞テレビの情報が一般だが見るばかりではなく、学校や地域での訓練や対話も大事だと思った。
「忘れられる恐怖をなくすために」 久米崚平さん
新型コロナウイルスの影響により熊本県ではボランティアが不足し、それと同時に現地の情報を伝える術がない状態が続いている。その中で被災者の方は忘れられる恐怖を感じている。実際に被害の状況を伝える情報が減り人々の心から忘れられつつある。この状況を踏まえ自分にできる事を考えるとやはり今は自分で簡単に情報の発信が可能でそれが自分に今できる事ではないかと思う。情報発信は小さな事だがたくさんの人が行えば大きな力になる。
まずは自分から情報発信を行い、たくさんの人に情報を伝えていきたいと思います。
「関心を持つこと」 駒井あかりさん
私は今回の「オンライン防災学校」を通して、災害への関心を持ち続ける努力をする必要があると思いました。今この瞬間にどこかで災害が起きてもおかしくありません。私たち全員が当事者意識を持ち、受け身ではなく自発的に行動することが出来るように今回のワークショップで学んだ事を活かしたいと思います。
「知ること」 駒井めぐみさん
今回の防災学校で学んだことは、これからの社会を生きる私たちにとって知っておかなければならないことだと思っています。
まず、今年7月に起きた熊本豪雨ですが、コロナのためにメディアが取材に行けずニュースなどであまり報道されなくなりました。被災地の方は私たちが「忘れてしまうのでは」と不安に思っているそうです。
そこで私は、中学校や高校の授業などの時間を活かし、災害について定期的に学び被災地にいない私たちも今の状況などを知ることが大事なのではないかと考えました。
「忘れないで。熊本豪雨」 古川蓮さん
今回の話を聞いて、熊本豪雨と今までの震災とはコロナ禍において違った局面があることを知りました。豪雨のせいで流れる思い出、いつも同じお弁当、いつもと違う空間。その上、コロナのせいで記者が来ることができないため、熊本豪雨に関心のある人が少ない。だから現地の人は普段の震災よりも頑張ろうとする気持ちが芽生えにくいということを知って衝撃でした。この中で私ができることは、今回知ったことを周りに広め、一人でも多くの人に関心を示してもらうことです。まずは学校の友だちからはじめていきたいと思います。
※原文で掲載しています
認定NPO法人カタリバとは・・・
2001年から活動する教育NPO法人。どんな環境にもかかわらず、すべての10代が未来をつくり出す意欲と創造性を育める社会の実現を目指しています。全国各地に活動拠点を持ち、年間300校以上で高校生の意欲を引き出きだすキャリア学習プログラムを実施。自然災害によって住む場所や学校を奪われてしまった子どもたちも支援の対象です。内閣府・男女共同参画「チャレンジ賞」(2009)、「グッドデザイン賞」(2010)、「未来をつくる若者・オブ・ザ・イヤー 内閣総理大臣賞」(2016)ほか受賞多数。
今村久美さんは、カタリバの創設者の一人で、代表理事を務めています。
https://www.katariba.or.jp
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主催/読売新聞大阪本社
協賛/新コスモス電機、創元社、ナカニシヤ出版、富士電工
協力/認定NPO法人カタリバ、神戸クロスロード協会