今西 正男 氏 神戸市 理事(医療・新産業本部長)
神戸医療産業都市は、阪神・淡路大震災で甚大な被害を受けた神戸経済を立て直し、市民福祉向上、アジア諸国の医療水準の向上による国際貢献を目的に事業を進めてまいりました。今では、350社の医療関連企業や理化学研究所をはじめとする研究機関、高度専門病院、そしてスーパーコンピュータ「京」などが集積する国内最大級のバイオメディカルクラスターに成長しています。
それら産官学の機関が連携し、最新医療の研究と提供、創薬のコスト削減・開発期間短縮、医療機器分野の開発などに取り組んでいます。
また神戸では、市民の皆さんに最先端の治療を届けるだけではなく、健康な状態を長く維持していただくための仕組み作りや、認知症克服の研究などにも力を入れておりますので、これからもご注目ください。
清水 健 氏 一般社団法人清水健基金 代表理事
妊娠中の妻に乳がんが見つかったとき、僕たちが出した答えは「3人で生きる」ことでした。手術をし、妻は無事に出産しましたが、1週間後、がんは全身に転移していました。
少しでも長く一緒にいられるように、毎日息子を病室に連れて行きました。24時間一緒に過ごせたのは、神戸医療産業都市にある「チャイルド・ケモ・ハウス」での3日間だけでした。妻の意識はもうほとんどありませんでしたが、3人一緒に寝て、一緒に涙を流せる場所があって、本当に良かったと思っています。
妻の心の糸が切れてしまうように思えて、昏睡状態になるまで「ありがとう」を言えなかったことを後悔しています。だから今は、当たり前の日常に、「ありがとう」をいっぱい言っていきたい。病、看護、介護、子育てなどに向き合っている方々に、苦しみだけじゃなく楽しみがあること、今が幸せなんだということを伝えたい。こうしてお話しさせていただく中で、皆さんと手を取り合って、その思いの輪を広げていきたいと思っています。
皆様を思っている方は、たくさんいます。一緒に頑張っていきましょう。神戸医療産業都市が、今後ますます多くの方々の心を救い、つなげてくださると、僕は信じています。
プロフィル
2001年読売テレビ入社。16年、妻・奈緒さんの一周忌に、闘病生活を中心に家族3人の歩みをつづった「112日間のママ」(小学館)を出版。「一般社団法人 清水健基金」を設立し、がん撲滅や入院施設の充実などに取り組む個人・団体の事業に寄付している。17年に読売テレビを退社、現在は自身の経験をもとに国内外で講演活動を行い、支援の輪を広げる活動に従事する。
市民病院が担うこれからのがんゲノム医療
安井 久晃 氏 神戸市立医療センター中央市民病院 腫瘍内科部長
がん細胞の遺伝子を解析し、その異常に基づき体質や病状に合わせて治療薬を選択する「がんゲノム医療」が、日本でも動き始めました。昨年全国で11病院が中核拠点病院に指定され、連携病院も100余り決定。当院は京都大や慶応義塾大と連携する連携病院として、一度に多数の遺伝子を調べ、効率よく異常を見つける遺伝子パネル検査を行っています。また、先進医療として昨年実施した「NCCオンコパネル」検査は、4月以降に保険適用となります。
今後のがん医療の大きな流れとなるゲノム医療ですが、遺伝子異常や治療薬が見つからないこともあれば、治療法があっても自費診療で経済的負担が大きくなる場合があり、検査には限界があることも事実です。ぜひ知っていただきたいのが、遺伝性腫瘍が見つかる可能性もあるということで、当院では遺伝カウンセリングの体制を整備しています。皆さん自身もがんについて学び、納得して治療を選んでいただきたいと思います。
神戸低侵襲がん医療センターにおける最新の放射線治療
馬屋原 博 氏 神戸低侵襲がん医療センター 放射線治療科医長
当院は手術室を持たない新しいタイプのがん専門病院です。最新の診断・治療機器と専門スタッフをそろえ、放射線治療や薬物療法、内視鏡治療、緩和ケアなどを行っています。手術が難しい患者さんでも、放射線治療のみ、あるいは化学療法を組み合わせることで治せるケースが増えてきています。80床のほとんどが個室のため、プライバシーに配慮した治療を受けていただくことができます。
当院の最大の特徴は、「サイバーナイフ」「トモセラピー」「トゥルービーム」という最新機器を駆使した放射線治療を保険適用で行っていることです。このうちサイバーナイフは、様々な方向から精度の高い放射線照射ができる装置。脳腫瘍だけでなく、動体追尾機能があるため、呼吸で動く肺がん・肝がんの治療にも効果を上げています。脳転移・肺がん・肝がんで9割以上の局所制御効果が得られています。切除困難な進行肺がんを対象として、免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせた最新の放射線治療にも取り組んでいます。
神戸大学国際がん医療・研究センター(ICCRC)の取り組み
味木 徹夫 氏 神戸大学医学部附属国際がん医療・研究センター センター長
当院は、がんに対する先進的外科治療の推進と、医工連携による新しい医療機器の研究・開発を柱としています。末期がんでたまった腹水を抜く治療(KM-CART)、西日本一の症例数がある前立腺がんに対するスペーサー留置術、膀胱(ぼうこう)がんに対する光力学診断(日本第2位の経験数)など特徴的な治療を行っています。外科系を中心とした診療科に消化器内科が加わり、2019年4月からは内視鏡治療を開始。また、初の国産手術支援ロボットの導入も予定しています。神戸市と連携した医療分野での国際交流にも力を入れています。
ICCRCトリプルネガティブ
乳がん研究センターの取り組み 創薬から臨床試験へ
谷野 裕一 氏 神戸大学医学部附属国際がん医療・研究センター 副センター長
トリプルネガティブ乳がんは、ホルモン治療も抗体治療もあまり効かないタイプの乳がんです。日本で年間約9万人発症する乳がんのうち、およそ1万人がこのタイプとされ、抗がん剤が効かなかった場合の再発率は非常に高くなっています。安価で安全性が確認されている抗がん剤・カルボプラチンの有効性が確認されていますが、データが少なく承認されていません。患者会の方と協力し、臨床試験に向けた取り組みを進めています。
次世代乳がん検診に向けた世界初のマイクロ波マンモグラフィの開発と臨床研究
木村 建次郎 氏
株式会社 Integral Geometry Science 企業戦略企画担当取締役
神戸大学 数理データサイエンスセンター教授
乳がん検診の標準は、日本でも世界でもX線マンモグラフィです。胸を強く挟むので非常に痛いのですが、そうすることで中の組織の密度差が強調され、レントゲンを撮った時、がんの部分が明瞭に色分けされて写るのです。ところが今、X線では真っ白にしか写らない「高濃度乳房」(アジア人の50歳未満の8割)が世界中で問題になっています。乳房は脂肪の塊である胸を硬い靭帯(じんたい)がぶら下げている構造ですが、若い人はこの靭帯が多く、X線を遮断するため、がんが見えないのです。超音波も脂肪の塊は通りにくく精度が高くない。
そこで我々応用物理学者が出した結論がマイクロ波です。携帯電話の通信にも使われるマイクロ波は、女性の胸も貫通し、がん細胞中の水分子やそれらを取りまく毛細血管の水分子に強く跳ね返されます。散らばったマイクロ波の解析が未解決問題でしたが、我々がその波の形から物体の形を導く計算式を世界で初めて解明しました。
これからも応用物理学者として学問の成果を医師に届け、最終的に乳がんに苦しむ方がいなくなるような世の中を作ることに貢献できればと思っています。
神戸医療産業都市ポータルサイト
https://www.fbri-kobe.org/kbic/