花園大学発達教育学部開設記念フォーラム「いま、学校・教師に何が求められているか?」が、5月20日、京都市中京区の花園大学無聖館(むしょうかん)ホールで開かれました。教育評論家の「尾木ママ」こと尾木直樹氏が、長年子どもたちと向き合ってきた経験を交えながら基調講演。続くパネルディスカッションでは、教育と福祉の視点を持つ各分野の教員らが、それぞれの立場から見た「求められる学び」について語り、500人以上が聞き入りました。

子どもの発達論 教師の理解必要


 1990年代後半から、脳科学の研究は非常に発達してきました。いじめや児童虐待―子どもの前で親がけんかをすることもこれに当たりますよ―は、子どもの脳を萎縮(いしゅく)させ、反対に、子どもがリラックスして過ごせる環境では、海馬の領域が増して記憶力がアップするという研究結果が出ています。子どもの発達の各段階で心のことが解明されてきた中で、現代の子どもたちに関わる世界的な問題が、SNSが発達に及ぼす影響です。24時間人とつながれる状況になって、一人で考える時間が失われてしまいました。さらに最近は「自撮り」の影響も問題になっています。自分で撮った自分の写真をSNSなどにアップして、「いいね」の数という評価にさらされる。思春期の発達論の観点からは、認められたい、「いいね」が欲しいという気持ちから、「盛った」写真、「奇跡の一枚」の撮影に固執し、それができなければ自己肯定感が大きく下がってしまいます。現に海外では不登校や引きこもり、自殺未遂にまで発展している問題です。こうした発達論を教師が分かっていれば、危険性や深刻さに敏感になって手が打てるのです。

 教師や親は子どもの代弁者であるべきです。子どもの声を聴き取り、心で受け止める。「どうしたの?」と言葉をかけ、話を聞く余裕があれば、子どもの苦悩やつらさを知ることができます。そして「大変だったね」と共感することで、子どもの心には元気がみなぎって、周りが予想する以上の力を発揮できます。2030年には人工知能(AI)の発達によりおよそ49%の仕事が取って代わられると言われていますが、そのAI時代において生き延びる力というのは非常に大切です。花園大学が掲げる「発達」と「教育」への理解は、教育の原理・原点です。その姿勢を大切にアプローチすれば、心豊かな子どもたちが育つと期待しています。

教育評論家・法政大学特任教授
尾木 直樹氏(尾木ママ)
 臨床教育研究所「虹」所長。早稲田大学卒業後、私立海城高校、東京都公立中学校教師として、22年間子どもを主役とした創造的な教育を展開。その後大学教員に転身して22年、合計44年間教壇に立つ。

禅の心で共存共栄できる社会に
 
丹治 光浩 (花園大学 学長)

 私の専門は臨床心理学ですが、本学の建学の精神である禅も心の問題です。学長室に「把手共行(はしゅきょうこう)」という書が飾ってあります。手を取って共に行くという意味で、共存共栄、禅の教えの一つです。発達障害を個性と考えるか、治すべき脳の疾患と考えるか。授業で学生に問いかけると、9割以上が個性で、そういう子どもたちも生きていける社会をつくるべきだという答えでした。でも極端な話、目が悪いのは個性だから眼鏡はいらないとはなりませんよね。眼鏡があるなら使えばいいし、無ければ無くてもいい社会をつくる。障害についても、お互いが歩み寄って共存共栄できる社会を、どこまで、どう実現するか。それを考えられる人材を輩出できるのは、本学ならではの特長です。

地域の実態 見つめる力を
 植田 健男 (教育経営論)

 教育を取り巻く問題は、高度経済成長期以来、産業構造の変化に伴い繰り返し起こっています。経済がグローバル化し、従来の教育で選ばれたエリートたちが通用しなくなる中で、新しい学習指導要領では、知識・技能の量ではなく、資質・能力そのものが問題にされています。教育内容や方法も変わり、学校は大きく揺れる時代に入るでしょう。また、経済的に先細りの状態になったときに、福祉の問題はもっと深刻になります。地域社会はさらに縮小し、都市部以外は消失するかもしれません。そのような状況での教育改革では、学校に何が求められているかを見抜き、地域の実態をしっかりと見た上で子どもたちに向き合う力が必要です。

共に生き、共に学ぶ 共生社会を目指す
 渡邊 実 (特別支援教育)

 特別支援教育における世界の潮流として生まれているのが、一人一人のニーズに応じた教育、さらに障害を持つ人も持たない人も共に学ぶインクルーシブ教育です。世界保健機関(WHO)は、障害の定義を、個人の障害の程度を基準にした「医学モデル」から、その人に支援がどれくらい必要かという視点で見た「社会モデル」へ改めました。日本でも法整備が進み、社会で共に生き、共に学ぶ共生社会を目指すという方向が示される中、周囲の子どもの理解を育てる必要性も出ています。今後は、医療的ケアが必要な子ども、診断がなくても支援の必要な子どもも増えるでしょう。インクルーシブ教育にゴールはなく、プロセスが大切です。子どもを認めて、子どものニーズから出発する教育を考えていきます。

福祉の視点で虐待防止
 和田 一郎 (児童福祉学)

 虐待による社会への損害は年間1兆6千万円。少年院や病院などに多くのコストがかかる社会問題と言えるでしょう。特に発達障害の子どもは虐待を受けやすく、福祉の視点が欠けている教員による体罰も問題になっています。昨年まで、東京都で体罰をした教員への体罰防止プログラムを担当していましたが、発達障害の子どもの扱い方を学ぶことで再発率は極端に減りました。また、福祉の視点から問題を見つけたとき、どう対応するかという知識も必要です。現状は一人で抱え込んでしまう先生が多いですが、スクールソーシャルワーカーなどと連携するコミュニケーションのスキル、自分の課題や事例で体験したことの共有の仕方も含めて学べる学部にしたいと思います。

一人一人の違いを認める
 田原 昌子 (幼児教育)

 フィンランドは経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査で世界の上位です。日本の学習指導要領に相当するナショナル・コア・カリキュラムが設定されていますが、具体的な指導内容は現場の状況に合わせて変化します。例えば音楽では、小学校低学年で音楽が好きになる土台作りをし、中学年以降は、興味・関心を大切にした授業が進められています。一人一人がみんな違うことを認め、それを生かす考え方は今後の日本でも必要です。教員や保育士には、多様な経験を通して生きる力を磨き、教科を超えて学びを深める総合的な指導力や、就学後の学びをなめらかにスタートさせる幼児教育と小学校教育との連携により、子どもたちの学びを接続することが今まで以上に求められるでしょう。

 発達教育学部紹介 

「エデュケア」の担い手育成

 松田 隆行 (花園大学発達教育学部設置準備室 副室長)

 「福祉の花園大学」とも言われる本学が、その強みを生かして教育と福祉の分野で様々な問題に対応するのが発達教育学部です。子どもの貧困や虐待などが起こる中、学習指導要領の改訂で教員の質の向上や教育の充実が課題となっています。人間そのもの、人間の発達と成長についての理解、教育と福祉についての理解が必要で、教育(education)と福祉(care)を融合させた活動「エデュケア」の担い手が求められています。本学部では、幼児期から児童期、青年期に至る発達の諸段階と発達段階の移行期に即して、児童生徒に対して適切に教育的働きかけをすることができる教師を養成します。また、発達障害への対応などを含めた特別支援教育に強い教師を育てるプログラムも設けます。

※発達教育学部は2019年4月 開設予定(設置認可申請中)。名称や内容は変更となる場合があります。