コープこうべ100周年記念健康づくりオンラインセミナー

主催: 読売新聞大阪本社 共催: 生活協同組合コープこうべ
後援: 兵庫県生活協同組合連合会、健康創造都市KOBE

協賛: 日本コープ共済生活協同組合連合会 

コロナ禍で私たちの暮らしは一変しました。対面や移動を避ける生活様式が、人と人との「つながり」にも変化をもたらしています。「健康」と「つながり」には密接な関係がある。そう指摘する社会疫学者の近藤尚己・京都大学大学院教授をナビゲーターとして、「つながり」を大切にしながら活動しているゲストの方々と、どのように「つながり」を広げていくのか、どのように健康づくりを進めていくのかを話し合いました。

  • ナビゲーター近藤尚己さん、八木早希さん

八木 今回のテーマである「健康」と「つながり」は大きく関わっているんですよね。

近藤 はい。私の専門は社会疫学で、誰もが健康になるための地域や社会のあり方を研究しています。多くの研究結果から、健康や長寿には「つながり」が大切だということがわかってきました。

八木 バトンをつなぐ4×100mリレーのメダリスト朝原さんは、競技生活や現在取り組んでいる陸上教室で、どのような「つながり」を感じていますか?

コープこうべ100周年記念健康づくりオンラインセミナー 夢をつなぐ

  • 朝原宣治さん

朝原 近年、日本の男子リレーへの注目が高まっていることを大変うれしく思っています。

 日本の男子リレーがオリンピックで初めて入賞したのは、1932年のロサンゼルスオリンピックです。以後、日本の短距離は世界に通用しないといわれた時期が続きました。92年のバルセロナオリンピックで60年ぶりに入賞を果たしましたが、当時大学生だった私は衝撃を受けたのを覚えています。私が初めて日本代表として五輪に参加したのが、96年のアトランタ。私のところでミスがあり、予選敗退しました。これが私自身のリレー人生の始まりです。その後、2000年のシドニーで6位、04年のアテネで4位、08年の北京でついに念願のメダルを獲得しました。そして今ではメダル獲得の常連国になっています。90年前に入賞した先輩から、多くの人が試行錯誤しながら、つないできたバトン。さらに、次の世代へと夢をつなげていかなければなりません。ちなみに私自身は今はマスターズ陸上でチャレンジを続けています。

 現役時代、ドイツでトレーニングしていた時期がありました。地域ぐるみでスポーツが盛んな様子を目の当たりにし、引退後はドイツで行われているようなスポーツで地域社会を豊かにする活動をしたいと思うようになりました。

  • 朝原氏がコープこうべキャラクターとCO・OP共済キャラクターと一緒に体操を実演

 08年に引退し、10年4月、スポーツを通して青少年の健全な成長と、次世代トップアスリートの育成を図るため、陸上クラブ「NOBY T&F CLUB」を立ち上げ、ショッピングモールでかけっこ教室を開講するなど、地域に根差した活動を展開しています。こうした活動を通して、「運動が苦手」という子どもから、「一人では競技を継続するのが難しい」といった大人まで、世代や目的を超えて誰もが気軽に参加できるコミュニティーをつくるのが目標です。今後とも、健康や食などスポーツが持っている機能を発信できればと考えています。

志水 「どこでもスポーツを」という言葉に感銘を受けました。今後はどういう場所で活動したいと考えていますか?

朝原 気軽に運動できる場所は減ってきています。私は最近、自宅裏にある池の周りで運動することが多いのですが、自然の中で遊ぶ、運動することも大事だと思っています。

八木 公園でボール遊びが禁止されるなど、子どもが思い切り運動できる場も減っていますよね。

朝原 子どものうちに、いろいろな遊びやスポーツを通して、さまざまな動きを身に付けることが大切です。

近藤 運動ができる環境というのは、社会疫学のテーマでもあります。

社会疫学から見た健康づくり

  • 京都大学大学院医学研究科教授 社会疫学者 近藤尚己 氏

近藤 社会疫学の研究では、「つながり」がない「孤立」の状態は、1日にたばこを15本吸うのと同じくらい命をすり減らすといわれています。いわゆる「孤食」は、約20万人の追跡調査から、3年間でうつ病になる確率が3倍になることがわかりました。これらは、人間が「つながり」の中で生きる社会的な動物であることの証しであり、逆に言うと「つながり」があれば健康になるといえます。

 そこで私が推進したいのが「社会的処方」です。体操や音楽、ボランティアなどで「つながり」をつくることが「クスリ」のように働き、健康になるのではと考えています。

 例えば神戸市で実施されているのが、お茶を飲みながら会話するといった、気軽に参加できるコミュニティー・サロンです。

 一方、コロナ禍で、育児中の親の孤立や、テレワークによる労働時間の増加などにより、うつ病になる人が増えています。その中でも科学技術を活用して、オンラインで健康相談ができるアプリや、障がい者や外出困難な人が働ける「分身ロボットカフェ」など、新しい事例も出てきました。こうした試みが広がり、どこにいても誰もがつながれる、まちづくりを目指したいと思います。

"競わない"多世代参加型ランニングGPSの世界

  • 志水直樹さん

志水 私が取り組んでいるGPSランとは、ランニングアプリを使い、走った軌跡で絵やメッセージを描く新しいスポーツです。これまで東日本大震災の被災地や、台湾・花蓮市で復興応援メッセージを描くなど、世界10か国を走り、約800作品をつくってきました。

 以前は小学校教員をしていたのですが、GPSランを始めたきっかけは、地元・西宮にある西宮神社で行われる「開門神事福男選び」。開門前に神社の周りを走った軌跡が「西」という文字になっていることに気づいたのです。2019年からはプロのGPSランナーとして活動しています。

 GPSランのポイントは「競わない」「世代を超えて、障がいの有無にかかわらず、誰でも楽しめる」ことです。また「町を知ることができ、地域活性化にもつながる」「社会貢献活動との親和性が高い」ことも魅力になっています。

  • GPSランナー志水直樹さん

 今年の7月には、コープこうべ100周年記念企画として、約250人が地域でゴミ拾いウォークを行い、歩いた軌跡をつなぎ合わせて「地上絵連結アート」をつくりました。今後は、さまざまな社会問題に対して「スポーツ×アート」の力で解決できる仕組みを創りたいと考えています。誰もが気軽に楽しめる、“競わない”ランニング文化を創出できればと思います。

近藤 タイムや順位など優劣を競うのではなく、互いの作品を見て楽しむ。「つながり」を生み出す、素晴らしい取り組みですね。

音楽を通じた健康づくり

  • 早瀬直久さん

早瀬 歌う人がいて、聞く人がいる。形のないものを、形にする。音楽も「つながり」の中にあるものです。

 私は音楽ユニット「べべチオ」を組んでいるほか、プロデュースユニット「ragumo」の代表も務めています。「ragumo」では、「暮らしをもっと掘り上げる」という基本理念のもと、多彩なクリエイターと共に、さまざまな分野で企画・制作・運営を行っています。お年寄りを対象にしたカードゲームのイベントでは、「小5のころ」というテーマで思い出を語り合いました。面白いエピソードがたくさん出てきて、認知症予防にも効果があるのではと思っています。子ども対象のワークショップでは、叫び声を録音してつなぎ合わせ、作詞や作曲を楽しみました。子ども自身や保護者も気づいていなかった才能を発見することも。子どもから大人まで、日常で埋もれがちな「健康の大切さ」や「つながり」を追求しています。

  • シンガーソングライター早瀬直久氏

 私は中学生のときに腎不全になり、腎移植を経験しました。以来、栄養を気にするようになり、食育にも興味を持っています。SDGsをテーマにすると身近に感じられなくても、家庭で子どもと一緒に「食べ物を残したらどうなる?」とゲーム感覚で取り組めば、意識は変わってくると思います。

八木 早瀬さんはコープこうべ100周年記念ソング『やさしさ つむいで』ポップバージョンの制作にも携わっていらっしゃいます。

早瀬 神戸市立小学校の音楽教諭を務めていた臼井真先生の作詞・作曲で、私が編曲しました。

  • 佐藤寿美子さん

佐藤 この曲は、コープこうべのビジョン「ターゲット2030」を表現した曲です。このビジョンは、2030年に実現したい「ありたいまちやくらし」を設定しており、「つながり」「健康」「環境」「あんしん」という四つのテーマで構成されています。

八木 歌詞には「笑顔をつないで ワクワクで 歩んでゆこうよ」「100年先も君と ずっとずっと一緒」などのフレーズが印象に残りました。

佐藤 歌詞は、未来へのメッセージ企画として組合員からフレーズを募集したものです。「笑顔」「つなぐ」「歩む」などは、健康づくりのキーワードでもあり、みんなが、みんなでできることだと思います。

八木 コープこうべでは、どのような健康づくりに取り組んでいますか?

  • 生活協同組合コープこうべ100周年PJT統括 佐藤寿美子さん

佐藤 東京大学と連携して、食習慣調査票を活用した、個人の食生活改善を図る取り組みを進めています。また、「ひょうごまるごと健康チャレンジ」と題して、生活習慣を見直す健康づくりの普及啓発も行っています。今後も、買い物だけでなく、地域の人が心とカラダの健康のためにつながる場をつくっていきたいと考えています。

近藤 今日、皆さんのお話を聞いて特に印象的だったのが、たくさんの笑顔です。スライドを見ると、多様な人が、いい表情でさまざまな活動に取り組んでいました。この「ごちゃまぜ感」が、共生社会づくりのキーワードです。一人ではできないことも、「つながり」によって広がっていく。住んでいるだけで健康になれるような環境を、ここ神戸からつくっていければと思います。本日はありがとうございました。

コープこうべ100周年記念健康づくりオンラインセミナー

 出演者プロフィール

朝原 宣治 (あさはら のぶはる)
大阪ガス株式会社ネットワークカンパニー事業基盤部地域活力創造チームマネジャー
北京オリンピック4×100mリレー銀メダリスト

同志社大学3年生の国体100mで10秒19の日本記録を樹立。オリンピックには4回連続、世界選手権には6回出場し、100mの日本記録を3度更新。自己最高記録は10秒02。2008年北京オリンピック4×100mリレーでは悲願の銀メダルを獲得。現在は、大阪ガスが運営する運動・陸上クラブ「NOBY T&F CLUB」を主宰するなど、自身のキャリアを活かした地域・社会貢献活動にチャレンジし続けている。

  • NOBY T&F CLUB

NOBY T&F CLUB
スポーツを通じた地域の青少年の健全な心身の育成、地域社会の活性化への寄与等を目的に2010年4月より活動を展開(現在は西宮<兵庫県>・森ノ宮<大阪市>・長居<大阪市>の3拠点で活動中)
。子どもからシニアまで幅広い層の会員の方々に、健康増進・体力向上・競技力向上等、様々な目標に応じたプログラムを提供している。
NOBY T&F CLUB

志水 直樹 (しみず なおき)
GPSランナー
ランニングアプリのGPS機能を使い、走った軌跡で地図上に絵やメッセージを描くランニングアーティスト。これまで4年半で、世界10ヵ国で約800作品を制作。各地でスポーツとアートを融合させた、多世代参加型のイベントを開催。

早瀬 直久 (はやせ なおき)
シンガーソングライター
音楽ユニット「ベベチオ」vo/g、プロデュースユニット「ragumo」代表

これまで映画やCMなど様々な分野で楽曲を手掛ける。 “暮らしをもっと掘り上げる”プロデュースユニット「ragumo」の代表も務め、ジャンルを問わない企画やワークショップなど多岐にわたる制作活動を展開。

近藤 尚己 (こんどう なおき)
京都大学大学院医学研究科教授 社会疫学者
専門分野:社会疫学・公衆衛生学。健康に影響を与える社会的な要因の研究や健康格差是正に向けたまちづくりの研究などを進めている。

ウェブサイト: 京都大学大学院医学研究科 社会疫学分野 https://socepi.med.kyoto-u.ac.jp/

八木 早希 氏 (やぎ さき)  
フリーアナウンサー 二児の母
毎日放送アナウンサー、NEWS ZEROキャスターを経て、ニュースを伝える他、大勢の政治家、著名人、ハリウッド俳優へのインタビュー、国内外の取材多数。コミュニケーション等に関する講演活動も行う。