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2019年2月28日 読売新聞 朝刊(大阪本社版)
毎年2月最終日は「Rare Disease Day(世界希少・難治性疾患の日)」です。希少・難治性疾患は世界で5000~7000種類あり、患者数や症例数が少なく、原因や治療法も確立されていないため、今なお多くの人が苦しんでいます。本年は、難病の一つである「血液がん」の現状と難病への理解・支援のあり方について、近畿大学医学部長 血液・膠原病(こうげんびょう)内科教授の松村到先生にお聞きしました(聞き手は清水健・一般社団法人清水健基金代表理事)。
造血器悪性腫瘍(血液がん)の主な疾患
白血病・・・骨髄の中で血球を作る造血幹細胞ががん化したもの
悪性リンパ腫・・・白血球の一種であるリンパ球ががん化したもの
多発性骨髄腫・・・骨髄の中で抗体を作る形質細胞ががん化したもの
薬と移植による血液がん治療
新しい治療開発への期待も
清水 松村先生がご専門の造血器悪性腫瘍(血液がん)には、どのような疾患がありますか。
松村 主に白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫の三つに大別されます(ページ上部表)。白血病と悪性リンパ腫は小児でも見られ、小児がんの中で最も頻度が高いのが白血病です。
清水 現在の治療法について教えてください。
松村 血液がんは病気が全身に広がっており、固形がんのように手術で切除して治ることはありません。治療の中心は抗がん剤です。急性白血病などでは、感染予防のためにクリーンルームに籠もっていただき、薬の副作用と闘っていただくなど負担が大きいのですが、治療を数回繰り返すことで完治することも可能です。抗がん剤以外には、がん化の原因となっている分子の活性を阻害する分子標的薬や、免疫機能を回復・活性化させることで抗腫瘍効果を発揮する免疫調整・賦活(ふかつ)薬があります。こうした薬を組み合わせてもうまくいかない場合には、造血幹細胞移植も行われます。
清水 「不治の病」と言われた時代もありましたが、治療は進歩しているのですね。
松村 以前は有効な薬剤がなく、ほとんどの患者さんが亡くなられていました。特に急性白血病では、診断から亡くなられるまでの期間が短く、「不治の病」という印象が根付いたのだと思います。しかし、今はそうではありません。急性白血病の一部は抗がん剤だけで治癒し、慢性骨髄性白血病は飲み薬だけでほぼ治癒に近い状態に病気をコントロールできます。現在も新しい治療薬の開発が進んでおり、薬だけで血液がんが治癒する時代が来ることを願っています。
患者さんとご家族のために
必要な社会の支援や制度
清水 医師から病名を告げられた時、患者さんもご家族もどうしても不安になってしまう。医療従事者と共に病気に立ち向かっていくには、「希望」が必要だと思います。
松村 病名を告げられた患者さんのショックは計り知れないもので、ご家族も苦しまれます。患者さんが病気と闘っていくには強い意志が必要なため、私たち医療従事者は患者さんの気持ちに寄り添いながら、できる限り時間をかけて病状や治療法を説明します。患者さんに治療への期待や将来への希望を持ってもらうことが大変重要だと考えているからです。
清水 今、難病の支援制度は整備されていますでしょうか。
松村 原因不明で治療法も確立されていない難病に国が医療費を助成する「指定難病」の対象となる病気は、331まで増えています(平成30年4月1日時点)。これらの患者さんは長期療養で経済的負担も大きいため、すばらしい制度ですが、がん、血液がんは対象外です。また、がん患者さんには高額療養費制度がありますが、治療の長期化により大きな経済的負担が発生し、将来への不安につながります。現在の医療に即したがん患者さんへの長期支援のための新しい制度が必要です。
清水 患者さんとご家族は、重い病気や不安と常に闘っていることへの理解と、一方で、その中で今を過ごしているということも知ってほしい気持ちがあると思います。難病への理解・支援には何が必要でしょうか。
松村 2人に1人ががんになる時代ですから、がんと共に生きる社会を作る必要があります。企業では患者さんの職場復帰のための体制作り、職場内の意識改革を進める必要があります。例えば、通院や体力面を考慮した勤務条件の調整や上司・同僚の理解を得られる職場環境作りです。患者さんが、がんになる前の生活を取り戻すことで、社会との接点を持ち、生きる喜びや希望につながります。それができて初めて、がんからの生還といえると思います。
清水 患者さんやご家族を含め、読者の皆さんにお伝えしたいことはありますか。
松村 今、血液がんと闘っている患者さんには、皆さんの病気は決して難病とはいえないほど治療法は進んでおり、私たちは最良の治療法を提供するために尽力しています。ですから、主治医の説明をしっかり理解して、希望をもって前向きに治療を受けてください。今、医療は大変な速さで進歩しており、私たちは近い将来、難病といわれている病気も必ず原因を突き止めて治療法を開発していくつもりです。決して希望を捨てないでください。患者さんの周りの方々もご支援をよろしくお願いします。
全国各地でRDDの啓発イベントを開催
毎年2月最終日の「世界希少・難治性疾患の日」は、よりよい診断や治療による希少・難治性疾患の患者さんの生活の質の向上を目指して、2008年からスウェーデンで始まった活動です。今年で10年目を迎える日本では、全国各地でイベントが開催されています(※)。お近くのイベントを訪れ、まずは知ることから始めてみませんか。
※一部終了している地域があります
RDD大阪イベント
「ハルカスからつながろう RDD大阪」
3月2日(土)11:00~17:00
あべのハルカス近鉄本店 タワー館7階 街ステーション
世界希少・難治性疾患の日(RDD)ホームページはこちら