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2018年2月24日 読売新聞 朝刊(大阪本社版)

2月最終日は「世界希少・難治性疾患の日」大学生と考える、難病支援のカタチ

 毎年2月最終日は「Rare Disease Day(世界希少・難治性疾患の日)」です。患者数や症例数が少なく、原因や治療法が確立されていない「希少疾患を含む難病」は、世界で5000~7000種類あり、今なお多くの人が苦しんでいます。その中の一つ、肺動脈性肺高血圧症をテーマに、医師、薬剤師を目指す大学生らと専門医が難病への理解や支援のあり方を話し合いました。
(進行は清水健・一般社団法人 清水健基金代表理事。会場は神戸大学医学部附属病院)


参加学生 : 神戸大学医学部/小畑権大さん、細江承さん 神戸薬科大学薬学部/栗林由布子さん、宮嵜純治さん
京都薬科大学薬学部/中家晃佑さん、山口恭佑さん 同志社女子大学薬学部/林響子さん 立命館大学薬学部/末永朝美さん、西村春香さん


肺動脈性肺高血圧症
 心臓から肺に血液を送るための血管である「肺動脈」の圧力(肺動脈圧)が異常に上昇する疾患。特に肺に血液を送り出す心臓の右心室に負担がかかり、右心不全を引き起こす。初期では体を動かすときに息苦しく感じるなど症状が分かりにくく、病気が進むと安静にしていても症状が出るようになり、活動が大幅に制限される。

病気や制度について学び
認知の高め方を考えよう

清水 江本先生から希少・難治性疾患、そして肺動脈性肺高血圧症についてご説明をいただき、診断が難しい、治療が難しい、社会的認知度が低い、この3点が大きな課題だということが分かりました。

江本 肺動脈性肺高血圧症は厚生労働省が定める「指定難病」の一つです。患者数は2013年度で2587人。100万人に20人程度と少なく、やっと疾患の認知が進んできたところです。

学生 実際に病気に苦しんでいる人がいる限り、人数にかかわらず取り組んでいくべきです。

学生 初期症状の息切れや疲労感だけでは、なかなか病気を疑いません。患者さん自身が早く気付けるよう、周知が大切です。例えば、テレビコマーシャルにあるように、症状を紹介し、「思い当たれば病院へ」という情報の発信です。

江本 テレビドラマや情報番組で肺高血圧症が取り上げられた際には、「自分もそうなのでは」と来院する人が増えたこともありました。

清水 正しい情報をどのように発信するのかは難しい問題です。例えば、厚労省の難病情報サイトについて、少し専門的で難しいといった声もよく聞きます。

江本 正確で分かりやすい新たなプラットホームが必要です。インターネット上にある情報は玉石混交です。患者さんやご家族が混乱しないよう、信頼できるサイトを作っていければと思います。

開発が進む治療薬
医療の進化を信じよう

清水 治療は進んでいても、まだ完治には至っていないというお話がありました。

江本 5年生存率が薬の開発前は約30%でしたが、薬の研究が進み60%に上昇しました。現在の神戸大学病院の実績では約80%です。とはいえ、薬は根本治療ではなく、病状をコントロールするものです。悪化すれば最終的に肺移植になる場合もあります。

清水 難病支援について読者からは、「治療法の確立、治療薬の開発」「専門医・専門医療機関の充実」などの期待が寄せられています。

学生 患者さんの希望はやはり完治だと思います。私は薬学部ですので、新薬の開発が医療の歴史を変えると信じ、こだわって研究していきたいです。

清水 希少疾患における新薬開発は、発病する原因が不明な上、メリットも少なく、厳しい状況です。

学生 新薬開発の最初のステップは認知を高めること。世論が動けば状況は変わります。

江本 国のバックアップもあります。専門医が不足している面もありますが、診断できる能力が裾野に広がっていれば、治療は専門機関で集中して行えます。

患者さんやご家族のサポートに
医療従事者としてできること

清水 難病支援には社会や周囲の理解が不可欠です。

学生 自分の病気について周囲が知っていれば、相談もでき、心の支えになります。理解されないことはストレスになります。

江本 メンタル面のケアも重要です。薬には副作用があり、生活の質の改善と生命予後の改善は、必ずしも一致しません。それぞれのライフステージや目標によって細かい配慮が必要です。さらに、患者さんだけではなく、ご家族や周囲のさまざまな意見を取り入れサポートしていく広い視野が求められます。

学生 学生の頃から授業などで患者の会の方と接する機会があれば、私たちの意識も変わるのではないでしょうか。

清水 同じ悩みを抱える人たちをつなぐ活動も大切ですね。

学生 完治せず治療が長丁場になるのはとてもつらい。患者さんの立場で考え、コミュニケーションを取り、寄り添い、たくさんの選択肢を示して本当の希望を引き出したいです。

江本 「医療は進歩している。将来、画期的な治療薬が登場する可能性もあるので、一緒にがんばりましょう」。全ての疾患について、そう励ますことができるといいですね。

医療従事者として
高い理想を心に抱こう

清水 皆さんの力強い言葉をうれしく思います。しかし、実際の医療の現場はいかがでしょうか。

江本 過重な仕事に流されルーチンワークになってしまうこともあるので、時間や仕事をコントロールすることが重要です。自分の中にどれだけ「患者さんの立場で」ということを意識付けできるかです。

学生 全ての患者さんと同様に接したいと思いますが、医療従事者の負担は大きいのが現状です。人員を増やす、制度の見直しなど、負担を軽減する改革も必要ではないでしょうか。

江本 若いときにこういった場で様々な立場の人と意見交換をするのは貴重な経験です。違う立場の意見を学んでいれば、現場に出てもチーム医療に貢献できるでしょう。神戸大学と神戸薬科大学では、1年生からチーム医療を学ぶアクティビティーを行っています。

学生 普段の授業では同じ学部の学生との交流が主ですが、実際来年から病院に出ると様々な医療スタッフがいます。全員一丸にならないと適切な医療が提供できないと改めて認識しました。いろいろな視点を受け入れ、今の気持ちを忘れずにやっていきたいです。