2017年2月25日 読売新聞 朝刊(大阪本社版)

参加学生 : 大阪大学医学部/寺本 将行さん、清元 佑紀さん 京都薬科大学薬学部/河添 有宏さん、杉本 みなみさん 
同志社女子大学大学院薬学研究科/井澤 優希さん、同志社女子大学薬学部西原 冴佳さん 立命館大学薬学部/山根 拓也さん、佐藤 美怜さん

 毎年2月最終日は「Rare Disease Day(世界希少・難治性疾患の日)」です。症例数が少なく、原因や治療法が確立されていない「希少疾患を含む難病」は5,000~7,000種類に上り、多くの人々が病に苦しんでいます。その中の一つ、筋ジストロフィーをテーマに医師、薬剤師を目指す大学生らと専門医が支援のあり方を話し合いました。
(進行は清水健・一般社団法人 清水健基金代表理事。会場は独立行政法人 国立病院機構 刀根山病院)

筋ジストロフィー
 筋肉が萎縮し、筋力が次第に低下する病気の総称。発症年齢や症状などによって複数の型に分けられる。根本的な治療法は確立されておらず、病気の進行を遅らせるために薬物療法が行われる。

患者の社会参加支える
設備や制度を知ろう

清水 座談会に先立ち、学生の皆さんに病棟を見学してもらいました。筋ジストロフィーの患者さんに合わせた設備が整っていますが、このような病棟が作られた背景は。

松村 厚生省(当時)の指導で1964年から全国27か所に病棟が整備されました。当院もその一つです。学校も併設され、病棟であると共に生活の場となっていました。それが変化するのは80年代以降。呼吸器が導入されて10歳代から30歳代へ平均寿命が大きく伸び、90年代には病院外で呼吸器を使える制度が整ったため、現在は在宅の患者さんが多数となっています。2015年に厚生労働省の定める指定難病になりました。今後、新しい薬の導入、在宅介護を支える地域との連携システム作り、2万人弱いるとされている患者さんの社会参加の方法などを考えていく必要があります。

治療薬開発にかかる期待
医療の進歩を信じ続けよう

清水 読者からは難病支援において治療法の確立、治療薬の開発に期待する声が多く寄せられています。

松村 患者さんの生命力を伸ばして生活の範囲を広げることが私たちの課題です。薬で少しでも体の機能を上げることによって、よりレベルの高い生活を長期間送ってもらおうとしています。筋ジストロフィーにおいては、病気の原因の根本である遺伝子の変異にアクセスするような新しい治療法も開発されています。完全に治せる薬の出現にはまだ時間が必要ですが、機能改善をもたらす薬は現実のものになりつつあります。患者さんや家族が、具体的なイメージと共に期待や夢が持てるというのは大きな変化です。

清水 患者さんや家族にとって一番大きな希望は治るということ。難病に対する日本の医療はそこに近づけているのでしょうか。

松村 ゆっくりですが前に進んでいます。医師も患者さんも、そこに希望を持たないといけない。まだ解決策がないから医師がいるのです。治せないから悩み続け、医師、看護師、薬剤師といったチームで方法を探り続ける。それが医療従事者の役割です。

関心が解決策を生み出す
理解の輪を広げよう

清水 難病を支援するためには、疾患に対する社会や周囲の理解も重要です。

学生 患者さんの考えや、家族の支援の状況などを知ってもらうといいのでは。患者さんが書き込めるSNSやインターネット上のプラットフォームを作れば、体を動かさなくても社会に発信でき、若い層へのアピールにもつながります。

松村 患者さん本人が自己発現、自己実現できる場は少ないですね。絵や詩が得意な人、ホームページを作れる人もいるので、情報技術(IT)を間に入れれば、彼らが持っている知識や表現を社会に出せますし、そこにレスポンスがあれば社会参加も可能です。

学生 一方で、病棟見学で患者さんや家族の方と直接コミュニケーションをとったからこそ、伝わってくることもありました。インターネットで得た情報だけで満足してはいけないという思いもあります。

松村 実際に体験するというのはとても大切なこと。学生のうちにできるだけ経験を積むことで、多様な見方をする人になれます。この場で皆さんに難病に関心を持ってもらうことから始めて、一般社会でも興味を持つ人が一人でも増えることを願っています。難病の人が地域で暮らす現在では、家族の負担、介護者のケアなど、コミュニティー全体で関心を持てば解決できる問題もあるはず。これからは社会全体の関わりが求められます。

清水 社会や周囲の理解の輪を広げるために患者さん、医師、薬剤師が色々な立場から情報発信し、多くの人に知ってもらうことが第一歩ですね。

今後求められる医師、薬剤師像とは

清水 難病支援には医療従事者の方々の力も大切です。これからの医師の役割は。

学生 ITの発達に合わせて、医療現場や患者さんの声と社会をつなぐインキュベーターになるのが医師の役割の一つになってくると思います。将来、医療や患者さんのことをしっかり理解している医師という立場になったとき、スマートフォンやSNSを身近なものとして使ってきた私たちの世代だからこそできる情報発信の方法があるはずです。

清水 では、今後薬剤師ができることは。

学生 スペシャリストとしてもっと自覚を持って発言し、アクションを起こしていかなければならないと考えています。しっかりと学び、病棟に出て患者さんと密にコミュニケーションをとることで、他の医療従事者からも信頼される薬剤師になれると思います。

学生 薬の適正使用、投与設計を医師や看護師に提言し、チームで共有して方針を決めていくという「チーム医療」で患者さんを支えられる存在になりたいですね。

清水 皆さんが病気と闘う方の希望になる医師、薬剤師になってくれることを期待しています。